ニュースの概要
海洋エネルギー関連企業のOcean Power Technologiesは10月8日、米海軍大学院(NPS)から無人水上艇WAM-V 8を受注したと発表した。納入先はNPSのロボティクス・無人システム研究コンソーシアムで、沿岸域のセンシングと自律システムの研究に使われる。艇には大気を測る機器や電気光学センサー(=光や映像で対象をとらえる装置)などを積む計画だ。同社はこれまで、海上に留まって長時間監視する固定型の製品が中心だった。今回の受注は、動き回れる無人プラットフォームへ用途が広がることを示している。
引用元: 米海軍大学院が沿岸監視・自律システム研究向け無人艇を発注(Ocean Power Technologies / GlobeNewswire)
分析・見解
動かない見張り番から、動ける調査員へ
海の観測には長く二つの方式があった。一つはブイのように一か所に留まり、数か月にわたってデータを取り続ける方式だ。もう一つは調査船を出し、人が乗って広い範囲を回る方式である。前者は安く長持ちするが、見られるのは自分の周りだけだ。後者は広く見られるが、燃料も人手も費用がかさむ。
WAM-V 8のような無人水上艇は、この二つの間を埋める存在になる。双胴の船体に機材を積み、あらかじめ決めた航路を自動で走る。人が乗らないので、荒れた日や長時間の任務でも運用の負担が小さい。
大学が買うことの意味は、実験場の確保にある
今回の買い手が軍の部隊ではなく、大学院の研究コンソーシアムである点は見落とせない。大学が機体を買うのは、完成品を使うためではなく、自分たちのソフトやセンサーを載せて試すためだ。つまり、この艇は「走る実験台」として選ばれた。
実験台に選ばれる条件は、積載の自由度が高いこと、改造しやすいこと、そして安全に失敗できることである。WAM-Vは軽く浮力の大きい船体で、機材の載せ替えを前提に作られている。研究者が自作の装置を載せるには都合がよい。
似た例はドローンの歴史にもある。小型の飛行機体は、まず大学の研究室で制御の研究に使われ、その成果が産業用途へ広がった。水上艇も同じ道をたどる可能性が高い。研究室で磨かれた自律航行の技術が、数年後に民間の調査や点検へ移ってくるからだ。
大気と映像を同時に取る意味
計画では、大気観測機器と電気光学センサーを積む。海面近くの気温や湿度、風の状態は、電波の届き方や霧の発生に直結する。沿岸では陸と海の温度差で状況が変わりやすく、データが足りない領域でもある。
ここに映像が加わると、観測の価値が上がる。気象データだけでは「何が起きているか」が分かりにくいが、映像があれば船の往来や漂流物と照らし合わせられる。複数の種類のデータを同じ場所、同じ時刻で取れることが、移動型の強みである。
沿岸が難しいのは、人も物も多いからだ
外洋と違い、沿岸は漁船、貨物船、遊漁船、浮遊物、浅瀬などが入り混じる。無人艇が自分で避けて走る能力は、ここで本当に試される。研究が沿岸に置かれたのは、技術の難所を選んで取り組むという姿勢の表れだろう。
この課題を乗り越えた技術は、港湾の点検、養殖場の見回り、ごみ回収の誘導など、民間の仕事にそのまま使える。軍事向けと環境向けの境目は、技術の面では思ったより薄い。
ビジネスへの影響
海洋ロボットの買い手が増える兆し
今回の受注は、無人艇の買い手が軍や政府機関だけでなく、研究機関へ広がっていることを示す。研究機関が増えれば、センサー、通信機器、解析ソフトなど周辺の部品や技術の需要も伸びる。機体そのものを作らない企業にも、参入の余地がある。
海洋ごみの回収や海藻養殖、ブルーカーボン(=海の生き物が取り込む炭素)の測定に関わる企業は、これを自社の課題に引きつけて考えたい。広い海域のデータを少人数で取れるなら、調査費用の見通しが変わるからだ。
事業者が今から確かめておくこと
無人艇を使う側の企業は、機体の性能より先に、取得したデータの扱いを決めておくべきだ。どの形式で保存し、誰が解析し、何に使うのかを曖昧にしたまま導入すると、機体は動いてもデータが活きない。
また、船の自動運航に関する規則は国ごとに異なり、整備の途上にある。導入前に、航行できる海域や届け出の要否を確認しておくと、後戻りを減らせる。
小さな一歩としては、まず自社の調査業務のうち、人が船で回っている部分を洗い出すことだ。繰り返しの多い作業ほど、無人艇への置き換えの効果が出やすい。